Work Episode

スタートアップ支援の仕事

地域で新しい挑戦を起こすために
紀陽銀行のエピソード

お金を動かすだけではなく、
地域や人を仕組みで動かす。

コワーキングスペースや会議室、カフェにイベントスペースなど、出会いを大切にしたコミュニティスペース「Key Site(キーサイト)」。前例のない取り組みに、上畑健太は「自分がやらなければ始まらない」という強い覚悟を持って立ち向かった。

KENTA UEHATA上畑 健太

ソリューション戦略部 スタートアップ支援室
2009年入行 経済学部 経済学科 卒

和歌山県で生まれ育つ。大学では経済学部に在籍し、会計学を専攻。「経済の仕組みを深く理解すれば、自分の手で社会の動きをつくることができるのではないか」という思いから金融業界を志望し、地元・和歌山を拠点とする紀陽銀行への入行を決めた。

地域に新たな産業を生み出し
挑戦を後押しする

和歌山県では、人口減少と事業所数の減少が深刻な課題となっている。特に若年層の県外流出が顕著で、進学を機に故郷を離れた若者が就職時に「帰ってくる場所がない」と感じる現実が、地域の将来に大きな影を落としている。また、外部環境が急速に変化する状況下でも、地域の産業構造は旧態依然のままで、新たな産業が生まれにくい。ヒト・モノ・カネといった経営資源が都市部に集中し、挑戦を後押しする環境が整っていないケースが多かった。

紀陽銀行では県内店舗の統廃合を進める一方、大阪エリアへの出店を加速させるなど、経営資本を再配置する過程において、長期間放置された空き店舗を「地域経済に貢献できる新たな事業」に活用できないか、という議論が巻き起こっていた。そこで構想されたのが「Key Site(キーサイト)」である。単なる施設ではなく、地域内外の人材・企業・教育機関・自治体がつながり、共創・実証・事業化を推進する「挑戦の場」として、地域に新たな産業や価値を生み出す拠点づくりが始まった。

和歌山県で生まれ育った上畑は、県外の大学に進学。「地元・和歌山に貢献したい」との思いから、紀陽銀行を就職先に選んだ。自身のバックグラウンドと現在の地域の課題を重ね合わせながら、彼は並々ならぬ決意でこのプロジェクトに臨んだ。

銀行以外の立場の異なる人々と信頼関係を構築する 上畑 健太 ソリューション戦略部 スタートアップ支援室 2009年入行

銀行以外の立場の異なる人々と
信頼関係を構築する

上畑は2009年に紀陽銀行に入行し、複数の営業店で個人・法人向けの営業活動に従事した。その後、中小企業の海外展開支援や、為替関連商品の企画・推進を担当。さらに、法人顧客に対し、人事やDX(デジタルトランスフォーメーション)などの経営課題解決を行うコンサルティング部門の立ち上げを行うとともに、行内の人材育成体制を整備した。金融支援にとどまらない本業支援活動を、銀行全体に浸透させていった。

「Key Site(キーサイト)」プロジェクトにおいて、彼は企画・運営・調整・推進を一手に引き受けることになった。前例のない取り組みなので、具体的な指示を出してくれる人は誰もいない。自分がやらなければ、何も動き出さない。ノウハウもリソースも人脈もないなか、ゼロから事業を形にしていく。構想段階では、銀行内だけではなく、行政や企業、大学とも連携し、地域にとって本当に必要な支援策とは何かを模索した。

このプロジェクトで求められたのは、地域に新たな産業を生み出すことである。「挑戦できる仕組み」をつくるために、銀行以外の立場の異なる人々をつなぎ、巻き込み、信頼関係を築く力が不可欠だった。また、テクノロジーの進展やグローバル化によって社会が大きく動くなかで、紀陽銀行の理念にもある「地域とともに生きる」をどう実装するかという問いにも向き合いながら、挑戦が連鎖するエコシステムの構築を目指した。

エピソードストーリー スタートアップ支援の仕事
エピソードストーリー スタートアップ支援の仕事

口だけ評論家ではなく
現場で手を動かす実践者に

当初は「収益にならないのでは?」といった懐疑的な声も多く、部署間の調整など組織内の壁が大きな課題だった。参考になる事例が行内にはほとんどなく、試行錯誤を重ねる日々が続いた。そんななかで上畑が大切にしていたのは、「口だけ評論家ではなく、現場で手を動かす実践者であること」だ。自らが先頭に立ち、何度も対話を重ね、ときには外部パートナーと連携しながら、小さな成功体験を積み重ね、「見える成果」につなげることに注力した。

地道な活動を続けた結果、行政や企業、大学からの賛同を得られるようになり、銀行外の組織と協働するのが当たり前の環境が生まれた。目先の損得勘定ではない。ビジョンやミッションへの共感・共鳴が、連帯を強めていく。「本気で動けば熱は伝わる」。上畑はその信念を貫いた。

また、紀陽銀行が長年にわたり地域に根差し築いてきたネットワークがあったからこそ、実現できたプロジェクトだともいえる。協働のスピード感、そしてリレーションシップの強度は、簡単に真似できるものではない。銀行という中立的な立場を生かし、産官学の異なる立場のプレイヤーを結びつけているのも大きな特徴だ。銀行の信用力を背景に、利害関係を超えた連携が生まれ、金融以外の価値を生み出す土壌を築くことができた。

スタートアップと和歌山の
架け橋となるワークサイト

2025年3月、JR「和歌山」駅東口から徒歩8分の場所にオープンした「Key Site(キーサイト)」は、コワーキングスペースや会議室、カフェにイベントスペースなど、出会いを大切にしたコミュニティスペースだ。「Keyが見つかる。紀伊で見つかる。」をコンセプトに、スタートアップと和歌山の架け橋となるワークサイトを標榜する。なお、4階部分には紀陽銀行のオフィスが入居し、資金相談だけではなく、DX、M&A、販路開拓など、スタートアップが安心して成長できる環境を整えている。

具体的な活動として、紀陽銀行の和歌山・大阪を中心としたネットワークを活用し、販路を広げると同時に地場企業との協業を図る「スタートアップとの共創」、インキュベーションプログラムやコミュニティを通じて、和歌山からビジネス・産業を作り出し、次世代を育成していく「起業を志す方や起業家との共創」、紀陽銀行と連携しているDXパートナーのプロダクトを起点に、県内企業を中心としたDXの浸透を図る「DXを志す企業との共創」、人材を採用したい地元企業と学生とのマッチングや、インターンなどを通じて和歌山県内の人流の活性化を図る「成長を志す企業との共創」がある。

開設から約半年(2025年3月27日〜10月31日の集計)で、延べ来場者数4,300人、コワーキング会員数60会員、累計イベント数100件、ユーザー登録数2,800人と、当初の想定を超える成果につながっており、上畑は確かな手応えを感じている。

上畑 健太 ソリューション戦略部 スタートアップ支援室 2009年入行
エピソードストーリー スタートアップ支援の仕事

銀行員としての枠
地域という枠を超えていく

「Key Site(キーサイト)」立ち上げを通じて、上畑は自らの働き方や意識に大きな変化を感じていた。これまでの自分は、銀行という組織に身を置き、どこか評論家的な立場に甘んじていた部分があったのではないか。課題を指摘することはできても、自ら動いて形にしていくことはできたのではないか。しかし、このプロジェクトでは、「自分がやらなければ始まらない」という覚悟を持って現場に飛び込み、手を動かし続けた。そして、さまざまな困難を乗り越えながら、「お金を動かすだけではなく、地域や人を仕組みで動かす」発想を身につけることができた。

コンサルティング営業は泥臭い 上畑 健太 ソリューション戦略部 スタートアップ支援室 2009年入行

地域で新しい挑戦を起こすには、ステークホルダーとの信頼関係構築が必要不可欠だ。だからこそ、やりきる力、当事者意識、さらには、越境して巻き込む力が求められる。企画・運営・調整・推進といった多面的な業務を通じて、プロジェクトマネジメント力や地域産業への理解が深まった。銀行員としての枠、地域という枠を超え、地域の未来を描く視点を持つようになったことが大きな成長だと自負する。

さらに、紀陽銀行は「融資ができる」だけではなく、「本業支援ができる」銀行を目指している。資金提供にとどまらず、地域や企業の課題に向き合い、事業支援や産業創出といった本業支援の領域に踏み込む姿勢が評価され、期待されている。「Key Site(キーサイト)」のような前例のない取り組みでも、小さな成功を積み重ねながら共感を広げていく力は、まさに紀陽銀行ならではの強みである。挑戦が連鎖する地域のエコシステムづくりに向け、自分自身も挑戦を続けていこうと、上畑は決意を新たにする。