WORK EPISODE.01

コンサルティング営業の仕事

地域課題解決のために。
紀陽銀行のエピソード。

TAISUKE ISODA磯田 泰佑

コンサルティング営業室 主任
2008年入行
経済学部 卒

町工場が軒を連ねる大阪市平野区で生まれる。父親もメッキ工場で働いていたため、油のにおいが漂い研磨の音が鳴り響く環境で幼少期を過ごした。「地域の身近な人に貢献したい」という思いから地方銀行を志望し、2008年に紀陽銀行に入行。

お客さまの懐深くに入りこんでいかないと、
真のコンサルティングは発揮できない。

M&A業務を通じ、事業承継に悩む中小企業の経営者をサポートする磯田泰佑。
ある取引先企業との商談を通して、彼はこの仕事の真髄を知ることになる。
お客さまの役に立ち、地域経済の活性化につなげる。それこそが地方銀行の使命なのだ、と。

事業承継に悩む経営者をサポートする

営業支援部コンサルティング営業室は、取引先企業の経営課題を解決に導くスペシャリスト集団である。中小企業の経営課題は多種多様で、最近はテクノロジーの進化に伴うITソリューションの提供や、働き方改革に即した人事制度の構築といった需要も増加傾向にある。磯田はそのなかのM&A業務に携わり、事業承継に悩む中小企業の経営者をサポートしている。

中小企業庁が公表するデータによると、中小企業の経営者の平均年齢は年々高まっており、高齢化が進行している。また、その半数以上が後継者不在で悩んでいるという。そういった課題を抱える取引先企業にアプローチし、事業承継の橋渡しを行うのが磯田の仕事だ。

「お金を扱うことだけが、銀行の仕事じゃないぞ」磯田は折に触れて、入行当時の支店長の言葉を思い出す。預金・貸出・為替が銀行の三大業務ではあるものの、今や銀行は“リレーションシップ・バンク”としてお客さまへ幅広いサービスを提供している。お客さまと信頼関係を築き、常にお客さまに寄り添いながら、様々な経営課題を解決していかなければならない。

最良のパートナーを探し出す

営業店から依頼があり、磯田は和歌山の老舗企業であるA社を担当することになった。従業員が数十名のA社もまた後継者不在が課題で、最初にお話を伺った際には廃業も視野に入れていた。

しかし、廃業すれば従業員たちは職を失い、路頭に迷うことになる。また、これまで築きあげてきた企業ブランドも消失してしまう。なんとか会社を残したい。その思いから、経営者は70歳を超えてもなお一線を退けずにいた。

事業承継は一筋縄ではいかない。経営者の子どもが会社を引き継ぐ「親族内承継」はひとつの方法だが、最近は子どもに事業を引き継ぐ意思がないケースのほうが多い。一方で「従業員への事業承継」の場合、株式の問題が出てくる。会社の株式を買い取るには多額の資金が必要となり、現実問題、いちサラリーマンに用意できる金額ではない。株式と経営を切り離すと、後継者は経営権を握れない。いわゆる“雇われ社長”では、事業承継の根本的な解決にはならないのだ。

磯田はじっくりとA社の話を伺ったうえで、M&Aを提案することにした。「御社の社名やブランド名、従業員の雇用、取引先との関係、すべてを引き受けてくれる最良のパートナーを必ず探し出します」と。

人間性が勝負をわける仕事

A社の返答は、「少し考えさせてほしい」だった。しかし、「大切な会社を見ず知らずの人間に渡したくない」というのが本音であることは、容易に想像できた。

事業の譲渡を検討する会社と、買収を通じて事業規模の拡大を目指す会社、両社を結びつけるのが、M&A業務だ。A社は後継者がいないケースだが、会社を譲渡する理由は千差万別である。昨今のコロナ禍も、その理由のひとつ。お互いのニーズをくみ取り、両社がさらに成長していく道を模索する必要がある。

ふたつの会社をつなぎ、お互いの経営者の気持ちをひとつにすることは、簡単なことではない。まずM&Aには、税務や労務、法務、会計など、様々な分野の専門知識が求められる。さらに、すべての課題が機械的に解決できるとも限らない。そこに様々な感情があることを、決して忘れてはならないのだ。経営者、従業員、取引先、様々なステークホルダーの思いに寄り添い、両社の歩む方向性を一致させていく。

とはいえ、寄り添いすぎるのはよくない。単なる御用聞きでは、結局どっちつかずで、双方の会社に迷惑をかけることになってしまう。プロとして、ときには厳しい提言も行わなければならないのだ。「この仕事は、人間性が勝負をわけるからな」上司のその言葉を胸に、磯田はお客さまと向き合う。

将来のビジョンをともに描く

M&Aは一朝一夕に成就するものではなく、経営者には熟考する時間が必要となる。数週間、ときには数ヶ月、時間を置くこともある。A社からは、提案から約半年後に「話を前に進めたいと考えている」という回答を得た。ここから、いよいよ本格的な交渉やパートナー探しが始まることになる。

M&Aで会社を譲渡することは、大切に育てあげた子どもを手放すようなものだ。当然、経営者には並々ならぬ覚悟がいる。そして、その経営者と対峙するには、磯田自身にも覚悟が必要となった。A社のことを深く理解し、すべてを自分ごとに昇華させる。過去の歴史を知り、現在の課題を認識し、将来のビジョンをともに描く気概があれば、必ず壁は乗り越えられると信じて。

コンサルティング営業は泥臭い

目の前にいるお客さまの役に立ちたい。紀陽銀行で働くすべての行員がそう思っているはずである。ひとりでは難しいことも、チームであれば解決できる。行員が一丸となって取引先のことを考え、知恵を出しあい、協力しあう。それが紀陽銀行のコンサルティング営業の強みだ。

コンサルティングと聞くと、スマートでかっこいい印象を受けるかもしれないが、実際のところは泥臭い部分が多い。これをやれば万事解決、という飛び道具はなく、お客さまと膝を突きあわせて議論を重ねる必要がある。そうやって、相手の懐深くに入りこむことで、今までお客さまも気づいていなかった真の課題を発掘し、コンサルティングが発揮できるのだ。

紀陽銀行のコンサルティング営業は、担当者にインセンティブが入る仕組みではなく、個人の成績のために、なんでもかんでもM&Aを提案すれば良い、という考え方ではないのだ。また、いたずらにエリアを広げることはせず、地方銀行ならではの特性を活かして、地域の取引先企業同士のマッチングを目指している。

M&Aは長期間にわたるプロジェクトのため、方向性が急転換するケースが多い。従業員のひとりが後継者を引き受け、M&Aの話自体が立ち消えることもある。たとえM&Aが成立しなくても、こちらからの働きかけが起点となり、お客さまの課題解決や事業の発展につながるのであれば、コンサルティング営業を行う上で、これほど喜ばしいことはない。

お客さまの役に立ち、地域経済の活性化につなげる。それこそが地方銀行の使命だと、磯田はとらえている。メガバンクにも、信用金庫にも、そして他の地方銀行にもできないこと。それを紀陽銀行がやっていくのだ。同時に、管理職を務める彼には、お客さまの課題解決のみならず行員の人材育成やマインドの醸成も求められている。「銀行をこえる銀行」を目指して、磯田の挑戦は続く。